【看病:30代】⑬生涯忘れられない「心で見た景色」

「今まで見た中で一番美しい景色は?」と聞かれたら、迷わず“あの日”を選びます。

“あの日”とは、手術日の夜のことです。

 

無事に手術が終わり、寝ている夫に挨拶をして帰る事にしました。

病院の玄関を出た時です。

「美しい夜桜」と、「懐かしい景色」が目に飛び込んできました。

 

「美しい夜桜」とは、病院の入口にある桜の木です。

たった1本の桜ですが、大きな木です。
キラキラと輝きながら、静かに揺れています。
ゆっくりと花びらが舞っています。

 

「懐かしい景色」とは、入院前までは見えていたはずの物です。

電柱、芝生、ポスト、ベンチ、団地、車…。
いつの間にか、見えなくなっていました。
桜の木の左右、前方に次々と現れてきました。

 

桜が風で揺れているせいでしょうか。
みんな踊って笑っている様に見えました。
すべてが輝いている様に見えました。

あまりの美しさに、思わず心の中で叫んでいました。
(わぁー!)

ゆっくりと、体を一回転させてみました。
見慣れた景色が、次々と見えてきます。

 

この時、気が付きました。
いつも下を向いて歩いていた事に…。
見えていたのは、たった1メートル四方の地面だけ。
毎日病院に通っていましたが、桜の木が満開になっていた事に全く気が付きませんでした。

翌日、この話を夫にしました。
リハビリ中に、廊下の窓から見てみました。
昨日の景色とは違って、普通の桜の木です。
電柱も芝生もポストも止まっています。

 

「亡くなった義母の声」に始まり、手術まで約1年。

1-③初めての入院「亡き義母の声」
『ある日、亡くなった義母の声が聞こえました。…』

 

手術日の夜、病院の玄関を出る前に大きく深呼吸をしました。

そして、長い安堵の溜息が出ました。

「やっと終わった…。」

 

「景色と心が1つになる」という事はあるのでしょうか。

あの日の景色は、もしかしたら「心で見ていた」のかもしれません。

もし、願いが叶うとしたら…
あの日に戻って、あの美しい景色を
「夫にも見せてあげたい」、「夫にはどの様に映るのかしら…」と思う事が時々あります。