手術の順番は朝1番でした。
「朝8時に来て下さい」と言われました。
朝早いせいか、他の患者さんのご家族にはお会いしませんでした。
段々不安になり、下を向いてエレベーターが来るのを待っていました。
後ろから明るい声が聞こえました。
内科医長(現副院長)が、笑顔で立っていました。
「おはようございます!」
「ご苦労様です!」
昔(30代手術時)、「夫を支える」という事について気付かせて下さった先生です。
エレベーターには乗らずに去って行かれました。
「頑張りましょう!」
手術中は、食堂で待っていました。
食堂に行く途中、今度は前院長が声を掛けて下さいました。
「わざわざ指名してくれたんだってね。ありがとう。」
昔(30代手術時)、内科医長時代に「一番若い入院患者のため、手術の順番を早くしてあげて欲しい。」と外科医長(現院長)にお願いをして下さった先生です。
この病院は、看護師さんだけでなく先生方も「家族の様に」接して下さいます。
本人はもちろんですが、家族も不安です。
先生方にとっては、ただの一言かもしれませんが、この一言で救われる事もあります。
午後1時頃、手術が終わりました。
予定どおり無事に終わり、手術の説明が始まりました。
主治医は、ホワイトボードに丁寧に描きながら、わかりやすく説明をして下さいました。
今後、注意する事について質問をしました。
「残念ながら、出来易い体質の様。」
「年1回は検査が必要。」
「半年でも出来る。年1回は必ず。」
前回とどちらが進行しているか質問をしました。
「今回の方が進んでいる。」
「非常に腫れている部分があった。」
「今回は、転移は免れないと思う。」
「治療方法について話し合いたい。」
「病理検査の結果は2週間後。」
「ご家族も一緒に。」
覚悟は出来ていましたので冷静でした。
「今回は私も覚悟をしています。」
「転移の話はまだしないで下さい。」
「私から先に話しておきます。」
そして、主治医にお願いをしました。
「いつまでも先生に頼ってしまい申し訳ございません…。」
「でも、今後も夫の主治医をお願いしたいのですが…。」
先生は、「う~ん…」と言いながら悩み出しました。
ボールペンをくるくる回しています。
なぜか、横に座っていた女性の先生が、すっと立って壁に張り付きました。
看護師さんも同じでした。
女性の先生の横で、直立不動の姿勢で並んでいます。
緊張している様でした。
(あっ…)
(もしかして…)
(お願いしてはいけない事…?)
とっさに頭を下げました。
「お願いします!」
「う~ん…」と言う声が続いています。
やっと先生の声が聞こえました。
「昔、自分が診た患者さんは、今後の経過についても知りたいと思っていますので、いいですよ。」
私の席の横で並んで立っていた、女性の先生と看護師さんがホッとしていました。
あとから、「どうなるかと思った。」「緊張した。」「でも良かったですね。」と言われました。
私も全身の力が抜けた様になりました。
(これで夫は生きられる…)
帰宅後、義父母の遺影に報告しました。
涙が溢れました。
なぜか、どんどんどんどん涙が出て止まりませんでした。