【看病:50代④】⑭抗がん剤治療と仕事「2回目(4月):医療用帽子」

1回目(3月)の抗がん剤治療が終わり、退院した頃から髪がパラパラと抜け始めました。

半年間の予定でしたので、夏用の「医療用帽子」を購入しました。

 

夫の精神面が心配でした。

(恐らく、2回目の抗がん剤治療が終わる「4月中旬頃」は、髪がすっかり抜けているはず…。)

 

4月は会議の多い月です。

退院予定の翌日には、外部での会議と夜は懇親会。

週末には、全国の所長が一堂に会する「年1回の全国所長会議」。

その後も、「外部機関との会合」、「各種委員会」、「夜の会合」など、スケジュールで手帳はびっしり。

 

その時は、「医療用帽子」を被っています。

まわりの視線が気になるはず。

せめて、3月中に「医療用帽子」に慣れてもらわなければ…。

 

そして、退院。

退院日、帰宅後吐いていました。

翌日から出勤…。

とても心配でした。

 

翌朝、出掛ける時、夫は鏡の中の自分をじっと見ていました。

スーツと「医療用帽子」の姿…。

厳しい顔をしながら、黙ってネクタイを締め直していました。

 

当時、銀婚式を迎えたばかりでした。

結婚して25年も一緒にいます。

話さなくても、夫が何を考えているかわかります。

体調が悪いのは、「薬」のせいだけではない…。

精神面に響いているのは、「髪が無い」こと…。

そして、スーツと「医療用帽子」の姿…。

 

心配なので、途中まで一緒に行きました。

駅の階段を上るのも辛そう。

ホームのベンチで休みました。

夫はハンカチを口に当て、下を向いていました。

 

私は、目の前の大きな看板を見ていました。

頭の中はからっぽでした。

 

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この日、私もピンクの帽子を被りました。

普通のつばのある帽子ですが、二人で帽子を被ったら目立たないと思いました。

 

夫は、電車の中で出入り口のドア近くに立ちました。

他の乗客に背を向けて、身をかがめる様にして静かに立っています。

「医療用帽子」の姿を見られたくないのでしょう。

 

しかし、夫は身長が180㎝以上あります。

だから、身をかがめても小さくなりません。

 

私は、夫の後ろにぴったりくっつきました。

すぐ後ろにいますが、夫にメールをしました。

 

“まわりの人は誰も見ていません”

“医療用帽子の事、誰も気にならない様ですよ”

 

夫の背中をトントンと叩きました。

送ったメールを見てもらいました。

夫はメールを読んだら、また目を閉じてしまいました。

 

またメールを送りました。

“同じ様な帽子を被っている人は他にもいます”

“デザインが普通の帽子だからだと思います”

“誰も医療用帽子だと気が付いていません”

 

また、夫の背中をトントンと叩きました。

送ったメールを見てもらいました。

夫はメールを読んだら、また目を閉じてしまいました。

 

またメールを送りました。

・・・

・・・

何度も繰り返しました。

・・・

・・・

必死でした。

顔を上げてもらいたくて…。

胸を張ってもらいたくて…。

 

こんなに早くメールを打てる自分に驚きました。

 

ー・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・ ー・

乗換駅に着きました。

すれ違う男性で、同じ様な帽子を被っている人が多い事に気が付きました。

夫は黒ですが、皆さんはカラフル。

「医療用帽子」ではないと思いますが、たまたまデザインが同じなのでしょう。

 

夫に話しかけました。

「同じ様な帽子の人、結構いますね。」

「おしゃれな色の人が多いですね。」

 

夫は黙って歩いています。

段々早歩きになりました。

 

私は、その後も必死で話しかけました。

「あっ、また!」

「あっ、あの人も!」

「結構、いっぱいいますね!」

 

しかし、夫は黙ったままでした。

 

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その日の午後は、エリアの所長会議。

夜は会合。

参加しないと思っていました。

昨日退院したばかりですし…。

吐いていましたし…。

 

帰宅するまで心配でした。

体調もそうですが、精神面も気になっていました。

 

でも、帰宅した夫の顔は晴れやかでした。

同期で、4月の異動で地方から東京に戻った方がいました。

その方は、夫の「医療用帽子」を見ても何も聞かず、極々普通に接して下さったそうです。

 

同期に久し振りに会えて嬉しかった様です。

「ありのまま」の、「本当の姿」を見てもらい、落ち着いた様でした。