ある日、看護師長から「いつでも連絡が取れる様に、携帯電話を常に持っていて下さい。」と言われました。
まだ、ポケベルの時代です。
身近な人で、携帯電話を持っている人はいません。
携帯電話を持っていて欲しい、という意味はすぐにわかりました。
「私だけですか…?」
「他にも入院している方のご家族はいらっしゃいますが…。」
看護師長の目は、とても真剣でした。
「奥さんだけです。」
「先生から言われましたのでお願いします。」
手術前の事です。
夫が寝ている間に、量販店に行きました。
電車の中で、ドキドキしていました。
ポケベルでさえ持った事がありません。
上司が頻繁に呼び出されるのを見ていたため、欲しいとは思いませんでした。
携帯電話は種類が少なく、店の隅に並べてありました。
「IDO(現au)」に、ピンク色がありました。
気持ちが明るくなる様に「ピンク色」を選びました。
1度だけ、大きな声で泣いた事があります。
携帯電話を買った日の夜です。
当時の説明書は厚いものでした。
細か過ぎて分かり難い…。
イライラしてきました。
(全然わからない…)
(どうして携帯電話を持たなければならないの…)
(みんな持っていないのに…)
そう思った瞬間、携帯電話と説明書を投げていました。
初めて大きな声で思いっきり泣きました。
静かな夜でしたので、ご近所に聞こえていたと思います。
でも…
女性だからなのか…
性格なのか…
やる事を思い出したらすぐに泣き止みました。
(あっ!)
(泣いている暇なんてない!)
(操作方法を早く覚えなきゃ!)
(説明書を読まなきゃ!)
投げた携帯電話と説明書を拾いに行きました。
最初から操作方法の勉強を開始!
朝までかかりましたが何とか終了。
携帯電話を持っている事は、誰にも話したくありませんでした。
「見舞いに来てくれた学生時代の友人」にだけは話しました。
泣いた事を話したら、携帯と固定電話とで練習をしてくれました。
他の人には黙っていました。
緊急を要するためなのではないか等、心配をされたくなかったからです。
初めての入院で声を出して泣いたのは、携帯電話を買ったこの日だけです。
「絶対に泣かない」と決めていたのに、泣いてしまいました。
あれから20年以上…。
携帯電話、PHS、SMS、インターネット、メール、カメラ…。
そして今は、スマホを子どもや高齢者が持つ時代。
時代の流れは本当に早いものです。
最近は、1年がとても早く感じられます。
1日1日を、本当に大切に過ごして行きたいと改めて思います。