【30代】⑧「携帯電話を常に持っていて下さい」と言われた日

ある日、看護師長から「いつでも連絡が取れる様に、携帯電話を常に持っていて下さい。」と言われました。

まだ、ポケベルの時代です。
身近な人で、携帯電話を持っている人はいません。

携帯電話を持っていて欲しい、という意味はすぐにわかりました。
「私だけですか…?」
「他にも入院している方のご家族はいらっしゃいますが…。」

看護師長の目は、とても真剣でした。
「奥さんだけです。」
「先生から言われましたのでお願いします。」

手術前の事です。
夫が寝ている間に、量販店に行きました。

電車の中で、ドキドキしていました。
ポケベルでさえ持った事がありません。
上司が頻繁に呼び出されるのを見ていたため、欲しいとは思いませんでした。

携帯電話は種類が少なく、店の隅に並べてありました。
「IDO(現au)」に、ピンク色がありました。
気持ちが明るくなる様に「ピンク色」を選びました。

 

1度だけ、大きな声で泣いた事があります。
携帯電話を買った日の夜です。

当時の説明書は厚いものでした。
細か過ぎて分かり難い…。
イライラしてきました。

(全然わからない…)
(どうして携帯電話を持たなければならないの…)
(みんな持っていないのに…)

そう思った瞬間、携帯電話と説明書を投げていました。
初めて大きな声で思いっきり泣きました。
静かな夜でしたので、ご近所に聞こえていたと思います。

でも…
女性だからなのか…
性格なのか…
やる事を思い出したらすぐに泣き止みました。

(あっ!)
(泣いている暇なんてない!)
(操作方法を早く覚えなきゃ!)
(説明書を読まなきゃ!)

投げた携帯電話と説明書を拾いに行きました。

最初から操作方法の勉強を開始!
朝までかかりましたが何とか終了。

携帯電話を持っている事は、誰にも話したくありませんでした。
「見舞いに来てくれた学生時代の友人」にだけは話しました。

泣いた事を話したら、携帯と固定電話とで練習をしてくれました。

他の人には黙っていました。
緊急を要するためなのではないか等、心配をされたくなかったからです。

初めての入院で声を出して泣いたのは、携帯電話を買ったこの日だけです。
「絶対に泣かない」と決めていたのに、泣いてしまいました。

 

あれから20年以上…。
携帯電話、PHS、SMS、インターネット、メール、カメラ…。
そして今は、スマホを子どもや高齢者が持つ時代。

時代の流れは本当に早いものです。
最近は、1年がとても早く感じられます。
1日1日を、本当に大切に過ごして行きたいと改めて思います。